先日、東北大学医学部附属病院に行ったら、すっかり変わっていて驚いた。薬剤部もいつの間にか2階に上がっている。島津のMALDIも入っていた! 調剤室ではでかいピッキングマシンが患者ひとりひとりの処方にあわせて次々とバケットにクスリを入れてゆく。
『パラサイト・イヴ』を出版してから来年で12年になるが、当時とはかなり変わった。俺はあの頃、基礎系の研究を担当していたのだが、患者のモニタリングの研究の方は、お世辞にもまだ成熟したものとはいえなかったと思う。しかしあの頃夢に描いていたことは、いまかなり実現化している。この12年間で、本当に人の役に立つ仕事が「科学」になってきたということだろう。
先日、「今年のロボット」大賞の授賞式があり、やはりここでも「人の役に立つ」「ビジネスとしてきちんと成功している」ロボットが高く評価された。もうひとつ大切なのは、「安全である」ということだ。愛知万博が終わって、ロボット周辺の雰囲気もずいぶんと変化したのではないか。
この2006年は俺にとって、「本当に人の役に立つこと」が「科学」とようやくイコールで結ばれる現実が見えてきた年だった。言い換えるなら、「人の役に立つ仕事をしている人」が「科学者」と同義になり始めた、ということだ。もちろんそれ以前にもそのような動きは脈々と続いていたはずだけれど、それが俺のような隅の人間でも実感できるようになってきたというか。
一方で、どこかのジャーナリストが騒ぎ立てると、わっと皆がそこに注目して、科学者もそこに金脈があると色めき立つ、という構図もあからさまに見えた年でもあった。で、やっぱりそっちのほうが時流に乗っている感じがするし、派手に見える。「役に立つ」「安全」なんて地味だし、そういうことを一所懸命やっている人はウェブで声高に喚いたりしない。社会というのは、この両方で動いている。
で、作家として、じゃあおまえはどっちを取るのか、と問い掛けられているような気がした一年だった。作家としてなら、当然前者を取った方が(短期的には)儲かるに決まっている。でもそうでない方法だってあるはずだ。
12年間で薬剤部の仕事が当然のように科学になったように、きっと次の12年間で、作家という仕事も変わるだろう。
今年出版した本は次の通り。
新刊は『第九の日』『おとぎの国の科学』『境界知のダイナミズム』
文庫化は『八月の博物館』『贈る物語 Wonder』
ケンイチくんシリーズと『境界知のダイナミズム』は、図らずもこの12年間の集大成という感じの本に仕上がったので、これらが出版できたことは嬉しい。しかし『境界知のダイナミズム』は、書店によって置かれている場所がばらばらで笑える。ある書店は社会学、ある書店は人文・思想、ある書店は脳・神経。文理融合ってつまりこういうことなのだ。
この年末年始は、マイクル・クライトンの新作『Next』を読むつもり。遺伝子ものだが、巻末のお薦め本一覧はありふれた本ばかりでちょっとげんなり、もうクライトンもおしまいか、と思っていたら、チェスタトンの本が二冊も取り上げられていて目を瞠った。クライトンがチェスタトンをどう扱ったのか、俄然興味が出てきた次第。
来年はもっと小説を書きたい。ひたすらエンターテインメントを書きたい。でもその願いが叶うかどうかはわからない。
瀬名秀明がゆく!東北大学機械系 *毎週金曜日更新
Science Pot 中学生と東大大学院生が科学を一緒に楽しむためのサイト
瀬名秀明の本棚β *著作一覧はこちら
瀬名秀明の課外ゼミ[flight]+東北大学キャンパス散歩
2006年12月31日
2006年12月26日
仕事
【エッセイ】銀座百点/2006.7/「最前線・ロボット事情 ―ともに暮らす未来のために−」pp.10-16,21-23
【エッセイ】出版ダイジェスト/2006.9.1号/「人とロボットの共存社会を考える」p.1
【エッセイ】静中静高同窓会報/第130号(2006.9)/静高時代わが青春の“走馬灯”/「鮮やか一コマ一コマ 記憶のタグでよみがえる」p.3
【インタビュー】Cobalt/2006.10/構成=浅野智哉「ノベル大賞・ロマン大賞選考委員 瀬名秀明先生インタビュー」pp.265-267
【インタビュー】理系ナビ/2006年06(秋号)(2006.10.13発行)/トップインタビュー/(無記名)「機械工学の面白さと夢を多くの人に伝えたい」pp.2-5
【記事】朝日中学生ウイークリー/2006.10.29号/今野公美子「作家・瀬名秀明さんとなるほど書店探検」p.1/ブックパラダイス「書店探検で見つけた本」p.15
【インタビュー】静岡新聞/2006.11.9/第45回全国新聞社広告責任者会議記念PR特集「ものづくり県しずおか 匠の技が世界を変える」/企画・制作=静岡新聞社営業局「夢のシーズを育む技術者に 明日を拓く静岡ものづくり」p.1
【選評】Cobalt/2006.12/「2006年度ノベル大賞最終選考発表!」pp.236-247/「期待感が募る」p.240 *今回で選考委員は終了。受賞者の皆さん、おめでとうございました!
【インタビュー】(R-T)[アールティーチャー]/Vol.5(2006年冬号)/リクルート/INTERVIEW「今、先生に伝えたいこと」/取材・文=荒井理恵「瀬名秀明 理系作家が語る「科学」との出会い方」pp.10-11
【講演録】日本バーチャルリアリティ学会誌/Vol.11, No.4, 2006/特集 第11回大会/「特別講演2 〈境界知〉とVR」pp.14-25(pp.222-233)
【書評】朝日中学生ウイークリー/2006.9.17号/ブックパラダイス/「植物と親しむためのタネをまこう」p.15/連載第6回
【書評】朝日中学生ウイークリー/2006.10.15号/ブックパラダイス/「美しい空の写真で気象現象がわかる」p.15/連載第7回
【書評】朝日中学生ウイークリー/2006.11.19号/ブックパラダイス/「発明をどう社会へつなげてゆくのか」p.15/連載第8回
【エッセイ】出版ダイジェスト/2006.9.1号/「人とロボットの共存社会を考える」p.1
【エッセイ】静中静高同窓会報/第130号(2006.9)/静高時代わが青春の“走馬灯”/「鮮やか一コマ一コマ 記憶のタグでよみがえる」p.3
【インタビュー】Cobalt/2006.10/構成=浅野智哉「ノベル大賞・ロマン大賞選考委員 瀬名秀明先生インタビュー」pp.265-267
【インタビュー】理系ナビ/2006年06(秋号)(2006.10.13発行)/トップインタビュー/(無記名)「機械工学の面白さと夢を多くの人に伝えたい」pp.2-5
【記事】朝日中学生ウイークリー/2006.10.29号/今野公美子「作家・瀬名秀明さんとなるほど書店探検」p.1/ブックパラダイス「書店探検で見つけた本」p.15
【インタビュー】静岡新聞/2006.11.9/第45回全国新聞社広告責任者会議記念PR特集「ものづくり県しずおか 匠の技が世界を変える」/企画・制作=静岡新聞社営業局「夢のシーズを育む技術者に 明日を拓く静岡ものづくり」p.1
【選評】Cobalt/2006.12/「2006年度ノベル大賞最終選考発表!」pp.236-247/「期待感が募る」p.240 *今回で選考委員は終了。受賞者の皆さん、おめでとうございました!
【インタビュー】(R-T)[アールティーチャー]/Vol.5(2006年冬号)/リクルート/INTERVIEW「今、先生に伝えたいこと」/取材・文=荒井理恵「瀬名秀明 理系作家が語る「科学」との出会い方」pp.10-11
【講演録】日本バーチャルリアリティ学会誌/Vol.11, No.4, 2006/特集 第11回大会/「特別講演2 〈境界知〉とVR」pp.14-25(pp.222-233)
【書評】朝日中学生ウイークリー/2006.9.17号/ブックパラダイス/「植物と親しむためのタネをまこう」p.15/連載第6回
【書評】朝日中学生ウイークリー/2006.10.15号/ブックパラダイス/「美しい空の写真で気象現象がわかる」p.15/連載第7回
【書評】朝日中学生ウイークリー/2006.11.19号/ブックパラダイス/「発明をどう社会へつなげてゆくのか」p.15/連載第8回
2006年12月24日
これからの講演
【講演】第19回バイオエンジニアリング講演会/2007.1.8(月)14:45-15:45/「バイオエンジニアリングと未来の物語」/仙台国際センター・大ホール
【講演】日本福祉用具・生活支援用具協会 平成19年新年賀詞交歓会〜創立10周年記念講演会〜/2007.1.23(火)10:30-11:45/「おとぎの国の生活支援」/LEVEL XXI(レベル21)東京會舘
【講演】日本福祉用具・生活支援用具協会 平成19年新年賀詞交歓会〜創立10周年記念講演会〜/2007.1.23(火)10:30-11:45/「おとぎの国の生活支援」/LEVEL XXI(レベル21)東京會舘
2006年12月23日
2006年12月22日
「バイオテクノロジージャーナル」連載開始
2006年12月16日
『境界知のダイナミズム』発売
【新刊】瀬名秀明、橋本敬、梅田聡『境界知のダイナミズム』/岩波書店/2006.12.15/ISBN4-00-026344-7/本体2200円/初刷3,000部 【amazon】【bk1】【広告】【編集部からのメッセージ・著者紹介・目次】
岩波書店ウェブサイトの編集部だより(自然科学書編集部)「これから出る本より」(2006.11.12)(2006.12.11)に広告あり。
【目次】
序章 〈境界知〉を見出すまで (瀬名秀明)
第1章 違和であり続けること (瀬名秀明)
第2章 境界を生みだす脳と心 (梅田聡)
第3章 〈境界知〉の現場を探る (瀬名秀明)
第4章 ことばと〈境界知〉 (橋本敬)
第5章 共通感覚の勇気へ (瀬名秀明)
終章 〈境界知〉のダイナミズム (瀬名秀明・橋本敬)
見本が届いた。今年はこれにかかりきりだっただけに、感激もひとしお。「フォーラム 共通知をひらく」シリーズの中では、この本がいちばんページ数が多くなった。
たまたま本日、書店で「本の雑誌」という雑誌を読んでいたら、評論家の鏡明氏が2006年度のSF作品について、「論理」と「倫理」、そして「物語」というキーワードを挙げていた。本書『境界知のダイナミズム』は、その問題への返答でもある。前にも書いたが、ひとりでも多くのSF読者に読んでもらいたいと思っている。従来のSFで描かれてきたファーストコンタクト・テーマを超えてゆく〈知〉のあり方をここではっきりと示したつもりだ。
最近、俺の本は書店で置かれる場所が定まらないのだが、この本もたぶん社会学の棚に射し込まれて、小説好きの読者の目には触れないまま終わってしまうだろうと思う。でも普段とは違う書棚に足を運ぶこと、それこそが真の冒険なのだという気持ちを持つ人に、ぜひ本書は読まれてほしい。
このノンフィクションが出たことで、ようやく肩の荷がおりた感じ。次の小説は正真正銘の娯楽小説になることだろう。
2006年12月15日
五月祭の対談内容公開
「サイ」のウェブサイトで、櫻井圭記さんとおこなった東大五月祭のセッションの記録が公開されている。週一更新で、全10回。
【公開対談記録】サイ/立花ゼミ×Production I.G INNOCENCEに見る近未来科学/「五月祭特別対談」
1 「イノセンス」より(2006.10.8)
2 チューリング・テスト(2006.10.15)
3 不気味の谷・タチコマ(2006.10.22)
4 ゴースト(2006.10.29)
5 記述し得ないもの(2006.11.5)
6 ミステリー・同期(2006.11.12)
7 四人称?? SSS(2006.11.19)
8 引用・ウィトゲンシュタイン(2006.12.8)
【公開対談記録】サイ/立花ゼミ×Production I.G INNOCENCEに見る近未来科学/「五月祭特別対談」
1 「イノセンス」より(2006.10.8)
2 チューリング・テスト(2006.10.15)
3 不気味の谷・タチコマ(2006.10.22)
4 ゴースト(2006.10.29)
5 記述し得ないもの(2006.11.5)
6 ミステリー・同期(2006.11.12)
7 四人称?? SSS(2006.11.19)
8 引用・ウィトゲンシュタイン(2006.12.8)
2006年12月14日
記事・書評
【記事】ムー/2006.6/天野敬太「エイズの原因はHIVではなかった!?」p.135
【書評】サンデー毎日/2006.9.24号/サンデーらいぶらりい「読みどき旬どき」/(無記名)「おとぎの国の科学」p.105
【書評】Clubism/2006.10/(無記名)「おとぎの国の科学」p.187
【書評】Weeklyぴあ/2006.10.5号/話題の本BOOK「Review」/(無記名)「おとぎの国の科学」p.213
【書評】週刊朝日/2006.10.27号/(無記名)「おとぎの国の科学」p.97
【書評】図書館教育ニュース/第1096号付録(2006.10.28発行)/のほほん こんな本いかがですか?/(無記名)「おとぎの国の科学」p.4
【書評】Nursing Today/2006.11/Book Review/(無記名)「人間と、その心を探るサイエンスのエッセイ」p.?
【書評】産経新聞/2006.12.1/ブックス/(無記名)「おとぎの国の科学」p.?
【書評】KARNA/2006.12/Book Review/カルナ編集部「ロボットに「心」はあるのか?」p.?
【記事】Robot Watch/2006.9.15/(編集部)「神奈川県と川崎市、10月27日〜11月5日を「ロボットウィーク2006」に」
【記事】Robot Watch/2006.10.27/森山和道「「ロボットビジネスシンポジウム〜今後のビジネス潮流を読む〜」レポート(前編)」
【書評】SFマガジン/2006.12/SFブックスコープ「NONFICTION」/長山靖生「非常識な常識を撃つ瀬名秀明の初エッセイ集」p.129
【書評】出版ダイジェスト/2006.10.21号/(無記名)「おとぎの国の科学」p.@
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/science/next.html
【書評】サンデー毎日/2006.9.24号/サンデーらいぶらりい「読みどき旬どき」/(無記名)「おとぎの国の科学」p.105
【書評】Clubism/2006.10/(無記名)「おとぎの国の科学」p.187
【書評】Weeklyぴあ/2006.10.5号/話題の本BOOK「Review」/(無記名)「おとぎの国の科学」p.213
【書評】週刊朝日/2006.10.27号/(無記名)「おとぎの国の科学」p.97
【書評】図書館教育ニュース/第1096号付録(2006.10.28発行)/のほほん こんな本いかがですか?/(無記名)「おとぎの国の科学」p.4
【書評】Nursing Today/2006.11/Book Review/(無記名)「人間と、その心を探るサイエンスのエッセイ」p.?
【書評】産経新聞/2006.12.1/ブックス/(無記名)「おとぎの国の科学」p.?
【書評】KARNA/2006.12/Book Review/カルナ編集部「ロボットに「心」はあるのか?」p.?
【記事】Robot Watch/2006.9.15/(編集部)「神奈川県と川崎市、10月27日〜11月5日を「ロボットウィーク2006」に」
【記事】Robot Watch/2006.10.27/森山和道「「ロボットビジネスシンポジウム〜今後のビジネス潮流を読む〜」レポート(前編)」
【書評】SFマガジン/2006.12/SFブックスコープ「NONFICTION」/長山靖生「非常識な常識を撃つ瀬名秀明の初エッセイ集」p.129
【書評】出版ダイジェスト/2006.10.21号/(無記名)「おとぎの国の科学」p.@
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/science/next.html
2006年12月13日
プラネタリウム番組「虹の天象儀」新情報
2006年12月12日
Redlands traffics, Cessna-49902
帰国した。日本ではどこの店に入ってもクリスマスソングが流れていて驚く。
今回合格した免許の種類は、プライベートパイロットの中でも固定翼単発でVFRといわれるもの。多くの人がセスナといわれたときに思い出す、あの小さな機体を想像してもらえばよい。有視界飛行のみで、雲の中に入ってはいけない。雲の中に入って飛ぶにはIFR(計器飛行)の免許が必要となる。
俺が留学したのはロスアンゼルスから車で1.5時間ほど東へ行ったRedlandsという町。ここのレッドランズ空港にハンガーを持つM.I.Airというフライトスクール(英語のウェブサイトはこちら。日本語版はこちら)。以前はマサさんという日本人が校長を務めていて、日本からの生徒も積極的に受け容れている。
まず7月に3週間行って、今回11月から12月にかけて一カ月滞在した。パイロットハウスというか、ふつうの一軒家の一室を貸してくれる寮があって、そこから毎日空港へ通う。教官はすべてアメリカ人で、もちろん訓練もすべて英語。寮では自分で食事をつくる。一カ月も三食自分でつくり続けたのは人生でこれが初めてかも。しかし訓練で疲れて帰ってきて、自分のつくる料理がまずいと悲しくなる。

パイロット免許を取りたいと密かに思う人は割といるだろうが、たぶん一番最初に不安に思うのは、どこのスクールを選ぶべきか、そしてどれだけ英語を話せればよいのか、ということだろう。
スクールは、飛行機関連の知人を見つけて、その人に紹介してもらうのが結局いちばんいい。見つけられない人は、見つけられるように努力するか、その時期が来るまで待っていた方がいいと思う。それからもうひとつ。学校への入学を証明するI-20という書類を出してくれる、そして留学ビザM-1の取得を必須とする、このふたつの手続きをきちんと踏むスクール以外は、どんなに安くても行ってはいけない。違法だからだ。
英語は、大学卒業くらいの能力があったほうがいいとは思う。しかし管制官とのやりとりは日常会話とも違うので、これは練習して慣れるしかない。最初はUNICOMで密度高度の数字を聞き取るのが精一杯だったけれど、何十回も乗れば自然と聞こえるようになってくる。それよりも、相手のいっていることがよくわからないので適当に推測して行動してしまうのが危ない。そうなると英語の能力というよりコミュニケーションの能力が大事ということになる。
だとすれば、母国語が英語か日本語かどうかというのは第一の問題点ではない。M.I.Airの現在のプレジデントは、マリヨさんという女性の言語学者。彼女は全世界で基準となる航空英語のあり方を確立しようとしていて、この考え方は日本人を鼓舞するものだと思う。日本でそういうことに関する本が出版できたらいいなと思うので、ぜひ興味をお持ちの出版社はお声掛けいただきたい。

私よりも少し前に免許を取った人は、もと某大手メーカーの技術者で、退職して自由になった時間をVFRフライトの愉しみにあてたいといっていた。VFRだから雨の中を急いで飛ぶ必要はない。晴航雨読、晴れた日に退職した団塊世代の仲間と飛んで、雨の日はゆっくり休む。そんなふうにして小旅行を愉しみたいという。
日本では、どうしても飛行機というと金持ちの道楽だと思われてしまう。実際、日本で飛ぶのは金が掛かる。でも、そうでない楽しみもあるのだ。
飛行機はとても保守的な業界で、俺が訓練に使っていたセスナ152は何十年も前の機体。飛行機はアメリカで年間2000台しか売れていない。みんな古い飛行機を修理しながらずっと乗っている。
飛行機に乗るには、だから技術者にならないといけない。エンジンのことを知って、自分でガソリンを入れて、飛行中も常にミクスチャーを調整しないといけない。でも自動車に乗るとき、私たちはいちいちボンネットを開けたりしない。これが飛行機の普及を妨げる一因でもある。

訓練を進めてゆくにつれて、少しずつ自分の身体感覚が広がってゆくのが面白かった。夜間のクロスカントリーではVAN NUYSという空港へ行く。ロウズボールのスタジアムやユニバーサルスタジオの上を飛び、ハリウッドヒルに掲げられた「HOLLYWOOD」という文字を眼下に眺める。東へクロスカントリーに出れば、どこまでも砂漠。
試験に合格した翌日、ソロで見知らぬ空港へ行ってみた。空港のコーヒーを飲んで、夕暮れの光の中を帰ってきた。そのとき初めて、訓練とは無関係に飛ぶことの楽しさを感じたのだった。
今回合格した免許の種類は、プライベートパイロットの中でも固定翼単発でVFRといわれるもの。多くの人がセスナといわれたときに思い出す、あの小さな機体を想像してもらえばよい。有視界飛行のみで、雲の中に入ってはいけない。雲の中に入って飛ぶにはIFR(計器飛行)の免許が必要となる。
俺が留学したのはロスアンゼルスから車で1.5時間ほど東へ行ったRedlandsという町。ここのレッドランズ空港にハンガーを持つM.I.Airというフライトスクール(英語のウェブサイトはこちら。日本語版はこちら)。以前はマサさんという日本人が校長を務めていて、日本からの生徒も積極的に受け容れている。
まず7月に3週間行って、今回11月から12月にかけて一カ月滞在した。パイロットハウスというか、ふつうの一軒家の一室を貸してくれる寮があって、そこから毎日空港へ通う。教官はすべてアメリカ人で、もちろん訓練もすべて英語。寮では自分で食事をつくる。一カ月も三食自分でつくり続けたのは人生でこれが初めてかも。しかし訓練で疲れて帰ってきて、自分のつくる料理がまずいと悲しくなる。
パイロット免許を取りたいと密かに思う人は割といるだろうが、たぶん一番最初に不安に思うのは、どこのスクールを選ぶべきか、そしてどれだけ英語を話せればよいのか、ということだろう。
スクールは、飛行機関連の知人を見つけて、その人に紹介してもらうのが結局いちばんいい。見つけられない人は、見つけられるように努力するか、その時期が来るまで待っていた方がいいと思う。それからもうひとつ。学校への入学を証明するI-20という書類を出してくれる、そして留学ビザM-1の取得を必須とする、このふたつの手続きをきちんと踏むスクール以外は、どんなに安くても行ってはいけない。違法だからだ。
英語は、大学卒業くらいの能力があったほうがいいとは思う。しかし管制官とのやりとりは日常会話とも違うので、これは練習して慣れるしかない。最初はUNICOMで密度高度の数字を聞き取るのが精一杯だったけれど、何十回も乗れば自然と聞こえるようになってくる。それよりも、相手のいっていることがよくわからないので適当に推測して行動してしまうのが危ない。そうなると英語の能力というよりコミュニケーションの能力が大事ということになる。
だとすれば、母国語が英語か日本語かどうかというのは第一の問題点ではない。M.I.Airの現在のプレジデントは、マリヨさんという女性の言語学者。彼女は全世界で基準となる航空英語のあり方を確立しようとしていて、この考え方は日本人を鼓舞するものだと思う。日本でそういうことに関する本が出版できたらいいなと思うので、ぜひ興味をお持ちの出版社はお声掛けいただきたい。
私よりも少し前に免許を取った人は、もと某大手メーカーの技術者で、退職して自由になった時間をVFRフライトの愉しみにあてたいといっていた。VFRだから雨の中を急いで飛ぶ必要はない。晴航雨読、晴れた日に退職した団塊世代の仲間と飛んで、雨の日はゆっくり休む。そんなふうにして小旅行を愉しみたいという。
日本では、どうしても飛行機というと金持ちの道楽だと思われてしまう。実際、日本で飛ぶのは金が掛かる。でも、そうでない楽しみもあるのだ。
飛行機はとても保守的な業界で、俺が訓練に使っていたセスナ152は何十年も前の機体。飛行機はアメリカで年間2000台しか売れていない。みんな古い飛行機を修理しながらずっと乗っている。
飛行機に乗るには、だから技術者にならないといけない。エンジンのことを知って、自分でガソリンを入れて、飛行中も常にミクスチャーを調整しないといけない。でも自動車に乗るとき、私たちはいちいちボンネットを開けたりしない。これが飛行機の普及を妨げる一因でもある。
訓練を進めてゆくにつれて、少しずつ自分の身体感覚が広がってゆくのが面白かった。夜間のクロスカントリーではVAN NUYSという空港へ行く。ロウズボールのスタジアムやユニバーサルスタジオの上を飛び、ハリウッドヒルに掲げられた「HOLLYWOOD」という文字を眼下に眺める。東へクロスカントリーに出れば、どこまでも砂漠。
試験に合格した翌日、ソロで見知らぬ空港へ行ってみた。空港のコーヒーを飲んで、夕暮れの光の中を帰ってきた。そのとき初めて、訓練とは無関係に飛ぶことの楽しさを感じたのだった。
2006年12月07日
FAA pilot!
本日チェックライドを受け、無事にプライベートパイロットの試験に合格。Temporary Airman Certificateを受け取る。トータルの飛行時間は約87時間だった。
試験終了後、CFI(インストラクター)のニックと握手!
試験終了後、CFI(インストラクター)のニックと握手!
2006年12月06日
2006年12月04日
これからの講演
これからの出演と講演
【ラジオ出演】「サイエンス サイトーク」/TBSラジオ/2006.12.10(日)21:00-21:30の予定/日垣隆、有村美香、瀬名秀明「科学の面白さを伝える」 *ポッドキャストでも視聴できます。
【トーク&サイン会】仙台文学館/2006.12.17(日)13:30-15:00/「科学と小説の翼を持って」/「読書サロン 仙台の作家たち」2006.11.18(土)から2006.12.27(水) *トーク&サイン会は無料・申し込み不要です。
【パネルトーク】今年のロボット大賞表彰式・記念シンポジウム/2006.12.21(木)14:00-16:30/TEPIAホール *「今年のロボット大賞」ウェブサイトから参加申し込みができます。
【ラジオ出演】「サイエンス サイトーク」/TBSラジオ/2006.12.10(日)21:00-21:30の予定/日垣隆、有村美香、瀬名秀明「科学の面白さを伝える」 *ポッドキャストでも視聴できます。
【トーク&サイン会】仙台文学館/2006.12.17(日)13:30-15:00/「科学と小説の翼を持って」/「読書サロン 仙台の作家たち」2006.11.18(土)から2006.12.27(水) *トーク&サイン会は無料・申し込み不要です。
【パネルトーク】今年のロボット大賞表彰式・記念シンポジウム/2006.12.21(木)14:00-16:30/TEPIAホール *「今年のロボット大賞」ウェブサイトから参加申し込みができます。
